このバカSFがすごい!

■ 宇宙戦争 / H.G.ウェルズ

 御茶研としてはむしろ第一回目に紹介しておくべきだった作品です。というか気分的には第0回。つまり別格。
 バカSFには大きく分けて、二つの種類があると思います。一つは、作者が意図してバカな設定やネタを詰め込んで、面白おかしくした作品。そしてもう一つが、作者が至極真面目に書いているのに、それがあまりにもズレすぎて結果としてバカになってしまった作品。
 今回紹介する『宇宙戦争』は後者に属する作品です。
 ……とか紹介できればことは簡単なのですが、何しろ作者が我が敬愛するウェルズ大先生。そうは問屋が定価では卸しません。
 色眼鏡を避けるためにも作品に対する前情報、特に作者に関する情報というのはできるだけ入れておかない方が、本来読書は楽しめるものです。が、ウェルズ大先生については一点だけ、知っているのと知らないのとでは楽しみ方が大きく変わる情報があると思うのです。
 例えばこの『宇宙戦争』。御茶研読者諸賢におかれましては改めて筋を説明するまでもないですが、古きよきタコ型の火星人が、アダムスキー型っぽい円盤に乗って地球に襲来するというだけのお話です。
 現在ではどこにでも見られる、いわゆる襲来もの(※御茶研用語。宇宙人とかその他似たようなモノが地球に襲来するお話を、私はそう呼んでいる)の元祖であり、原典であり、基本ともいうべき作品です。
 高度成長期真っ直中の当時の流れとして、SF作家たちは半ば、自らの作品に一種の未来予想図、フィクションを描きながらも、それは未来にはやってくるかもしれない、という思いを抱いて、作品を執筆していたということ。ウェルズ先生はその傾向が特に顕著であった作家で、本作を含め『透明人間』や『タイムマシン』など、自分が書いた作品の内容を、半分本気で信じていたように思われます。つまり上記のような作品を先生は半分ネタ、半分本気で、書いていたということです。
 このスタンス、情熱が、行間に溢れているのが素晴らしい。
 私も一作家として、見習うべき部分が沢山あると、今だその意気に到達せぬ自分自身に忸怩たる思いであります。
 なので、ウェルズ先生の作品を読まれる際はぜひ、「ああ、この人はこれを本気で書いていたんだな」と思いながら読んでいただけますと、また違った感慨があるのではないでしょうか。
 本作は作品単体としても、一種の伝統芸能として素晴らしいモノがありますが、何よりも後世に数多くのネタを残したという点でも、もっと評価されるべきでしょう。



 なお、こちらも数年前まではなかなか入手しにくかったのですが、映画化のおかげで現在ではかなり容易に手に入ります。これは喜ぶべきことでしょう。映画の出来に関しては触れるな。武士の情けだ。

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