ノドイモッ!


 隙羅山(ひまらやま)から伸びる峠道を、芋津鞠斬之介(いもつまりざんのすけ)は歩いていた。
 斬之介は侍である。だがその身なりは、髪も髭も伸び放題、着ているものといえばすり切れかけた芋色の着流し一枚といった、いかにも食い詰めた浪人といった風体であった。
 実際には、斬之介は護衛や野伏退治を請け負う用心棒家業を生業としている。だが、街から街への流浪の旅暮らしは、浪人暮らしとほぼ変わらぬ。
 斬之介とて何年か前まではとある小藩に仕官していた。だがある日、藩主が朝餉の味噌汁に入っていた芋を喉に詰まらせ、死んでしまった。すぐさま後継ぎが新たな藩主に立てられたが、新たな藩主は財政の逼迫した藩政の立て直しに着手し、大幅な人減らしを行ったのだ。
 斬之介は藩を追われた。名前に芋が入っているのは縁起が悪い。そういう理由であった。
 それ以来、斬之介は銭と酒と火星人と己の腕以外の何も信じぬことにしている。
 犬眠峠(いねむりとうげ)と呼ばれるこの道は、普段より往来の多い場所ではない。道程を半ばまで来た頃、行き交う者がなく、斬之介は偶然にひとりとなった。
 突如、前方より何かが飛んできた。斬之介の鋭い目がそれを捉える。どうやらそれは、さつま芋のようだった。
 女が自分を慰めるのに用いるには大きすぎるほどの芋である。ぶつかれば手痛い打撃を被るであろう。
 斬之介は鯉口を切り、抜き合わせた。
 芋と斬之介が交差する。斬之介を通り過ぎた芋は、見事に皮を剥かれた状態になっていた。
「いやーん」
 芋が叫んだ。
 振り向く。芋が落ちている。身をくねらせ、剥かれた身体を隠そうとしているように見える。
「何てご無体な」
 芋が喋った。斬之介はその場を立ち去ろうとした。
「お待ちください」
 芋がぴょんぴょん跳ねて回り込み、立ちふさがる。
「今でこそこんな身なりをしておりますが、わたくし、実はとある藩の姫なのです」
 斬之介は銭と酒と火星人と己の腕は信じているが、そこに芋は含まれていなかった。
「本当です。とある呪術師に芋になる呪いをかけられてしまい、こんな姿になったのです。誰かの喉に詰まり、殺さない限りこの呪いは解けないのです」
 斬之介はしばし考えた。
「名前は」
「招夏(しょうか)と申します」
「美女か」
「傾国級戦術兵器といわれておりました」
「胸のサイズは」
「70のB」
 斬之介は懐に招夏を突っ込んだ。煮炊きの道具を持ち合わせていなかったのだ。
「裸で殿方と密着することになるなんて。責任は取ってくださいね」
 芋が何か言っているが、無視して進む。
 次の宿場である茄の葉(ナノハ)まではもうしばらくである。だが、そのまえにやるべきことがあった。
 この峠に、マアプルという名の紅毛人の夜盗が出ると噂になっている。その討伐が、今回の仕事であった。
「有り金全部置いていきな」
 出た。
 胸元を見る。マアプルは紅毛人に関わらず残念なスタイルをしていることで有名だった。そのためか、胸乳の大きな女は金品だけでは許されず、命も奪われるそうであった。明らかに私怨であるといえた。
 それを聞いたときは、何という資源の無駄遣いをするのだ、と憤ったものだ。チチシゲンデストロイヤーを用いてでも退治せねばならぬ。そう思った。
 斬之介は、乳の小さい女に興味はないのだ。
 品定めされたことに気付いたのか、マアプルが巨大な蛮刀を振りかざして襲いかかってくる。斬之介も抜刀する。懐で「がんばれ、ふぁいとー」と芋が応援している。黙れ。
 八双に構え、半身になって突撃を回避する。重い蛮刀を真正面から受けるわけにはいかぬ。一太刀で決めるつもりであった。
 マアプルは刀を振り回し、上から下から切りかかってくる。なかなかの腕前だが、荒削りで、正しい修行を詰んだものではないようだった。
 斬撃の切れ目を縫って体を寄せる。肩が胸元に触れる。柔らかさはない。
 一動作で、芋を懐から抜き放った。肘から先の動きだけで、女の口に詰め込む。
 何をすべきか。もちろん招夏は心得ていた。
 芋が膨張し、自ら喉の奥に滑り込む。マアプルが苦悶の表情を浮かべる。その顔色が芋色になり、ついにはさつま芋色になって。
 蛮刀を取り落とした紅毛人は、峠道に倒れ伏した。
 斬之介の前には、全裸の美女が手ブラで立っていた。
「ありがとうございます、斬之介さま。おかげで元の姿に戻れました。つきましては、さあ、責任をとっていただきましょう!」
 斬之介はもう一度抜刀すると、女を料理した。
 日の暮れかけた峠道を、侍がひとり、歩いてゆく。

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